まぼろし

夜・・・。
今日も深い闇が私を包み込む・・・。

『フィリップの幻影に惑わされてはいけない』

そう強く思い今日も布団に入り眠りにつく。

けれど・・・
夢とは皮肉なもの。
懐かしい思い出が今、夢の中で形を取り戻し、
優しかったフィリップが再び目の前で微笑む・・・。

(さあ・・・花火。僕の傍においで・・・。)
「ああっ・・・フィリップ・・・私はもう貴方のお傍へは・・・」
(どうしてだい・・・?君は僕の事が嫌いになってしまったの?)
「違う・・・私は貴方を・・・愛して・・・」
(なら何を拒むの・・・?花火・・・僕の花火・・・)
「確かに愛して・・・いました・・・・・・けれど・・・もう貴方はこの世にはいないの・・・」
(何を言っているんだい?僕はこうして君の目の前にいるじゃないか。)
「あ・・・」

『貴方は・・・私が造り出した幻・・・本当のフィリップじゃない・・・』
言いかけて私は泣き崩れてしまう・・・
それ以上言ってしまったなら、彼はもう二度と私の夢には現れないであろうから。

(本当にこのままでいいのか、花火君?)

今度はフィリップではない声が私に囁く。
この声は・・・大神さん!?
(幻なんかに惑わされていたんじゃ、本当のフィリップさんが悲しむよ。
 それなのに君は・・・ずっとこのままでいいのかい?)
・・・大神さんの言葉が私の胸に響く。
本当のフィリップは・・・彼はこんな私をどう思っているだろう。
結局、どんな意志をかざしても、幻にすがって一生生きていこうとする私を・・・。

「ごめんなさい大神さん・・・私が・・・間違っていました・・・」

私はもう負けない。自分の弱さにも・・・思い出にも・・・
「フィリップ・・・私はまっすぐ未来を見つめます・・・貴方なら・・・許して下さいますよね・・・」
私はすっと立ち上がり前を向く。
するとそこにいたはずのフィリップはいつの間にか大神さんに変わっていた・・・。

「君はこれからもっと強くなれる・・・そうだろ?花火君。」

大神さんが私にそう言い笑顔を向けると、
私の夢はまばゆい光とともに消えていった・・・

「花火・・・!?花火・・・!!・・・良かった・・・目が覚めたぞ、隊長・・・」
重い瞼が開いた時、日射しが入る部屋の中にはグリシーヌと大神さんがいた。
「良かった花火君・・・グリシーヌから、うなされて丸一日目を覚まさないと聞いたから、
 急いで飛んで来たんだ。目覚めてくれて本当に良かった・・・」
「大神さん・・・グリシーヌが・・・?ありがとう・・・グリシーヌ・・・」
目に涙を溜めたグリシーヌに微笑むとグリシーヌはただうなずいて
「・・・後は頼んだ隊長・・・私は花火に食事を持ってくる。
 なにせ丸一日何も食していないのだからな、待っていろ花火。」
とだけ言うと涙を拭いてそそくさと部屋をでていってしまった。
「大神さん・・・私・・・夢の中で貴方の声を聞いたんです・・・」
「俺の声・・・?」
「はい・・・そのおかげでとても勇気づけられました・・・ありがとうございます・・・」
「あ・・・ああ。そう言われるとなんだか照れるな。俺自身はなにもしていないけどね・・・ははっ。」
「ふふっ・・・そういえば・・・そうですね・・・」
お互い顔を見合わせ微笑む。
『きっと大神さんならば私を正しい未来へ導いてくれる・・・』
そんな気持ちを胸に抱き締めながら・・・

END

図書館へ>